
新疆ウイグル自治区・クチャ近郊にあるスバシ故城。
乾いた渓谷に風が吹き抜けるこの地には、かつてシルクロードを往来した僧や商人たちの祈りが今も眠っています。
遺跡の中でも特に印象的なのが、ゾウを象った寺院。
その名のとおり、寺院の基壇や壁の構造がゾウの姿を思わせる造形で、まるで砂漠の中に巨大なゾウが静かに佇んでいるかのようです。
このユニークな建築様式は、インド由来の仏教建築に見られる象のシンボリズムに由来します。
ゾウは仏教において「力・智慧・慈悲」を象徴し、仏塔や門柱の装飾にも多く登場します。
スバシ故城は、まさにインド・中原・中南アジアが交わる文化の交差点であり、
ここに“象の寺院”が建てられたことは、仏教伝播の多様性を物語っています。
中医学の古典には、象皮や象牙が外用薬として登場します。
象皮は湿疹や皮膚炎の鎮静に、象牙は止血・解毒の目的で用いられたと伝えられています。
自然の力を借りて身体を整えるという思想は、古代の人々が動物や植物を通して自然と調和していた証でもあります。
ただし、現代ではワシントン条約(CITES)によって象の保護が国際的に義務づけられており、こうした動物由来の薬材は一切使用されていません。
現代の中医学は、同じ理念を保ちながらも、
植物性や鉱物性の安全な代替薬を用いて、自然との共存を重んじる方向へと進化しています。
当院でも、こうした古代の智慧を背景に、現代に適した形の漢方診療を行っています。
体質・気候・生活環境を総合的に見立て、
「自然と調和する健康」をテーマに、一人ひとりに合わせた処方を提案しています。
かつてシルクロードを通じて文化と薬草が行き交ったように、
私たちの医療も、東西の知恵をつなぐ架け橋でありたいと思います。
砂漠の風のように穏やかで、
そしてゾウのように力強い生命の流れを、
あなたの中にも取り戻していきましょう。